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国際政策学部で何を学ぶか——実際の講義から

 こんにちは。広報担当の兼清慎一です。今回は特別に、授業で使われた教材をご紹介します。

 国際政策学部国際コミュニケーション学科の橋本憲幸先生が書かれた文章です。橋本先生は国際教育開発論、教育哲学がご専門です。この文章は、2020年5月7日に行われた「国際政策入門」という1年生の必修科目の初回の授業で配られたものです。本学国際政策学部の強みにも弱みにも触れています。本学を希望する高校生や国際政策学部の在校生はもちろんのこと、多くの高校生や大学生にも読んでいただきたい内容だと感じ、橋本先生にお願いして公開させていただきました。縦書きだったものを横書きにし、漢数字だったところをアラビア数字に変換しています。

           国際政策学部で何を学ぶか

 「国際政策入門Ⅰ」の初回を担当する3人のうちの1人、橋本憲幸です。ご入学おめでとうございます。本当は教室でみなさんにお会いしたかったので、このような状況は残念です。ただ、このような出会い方を積極的に捉え返していきたいとも思っています。

 橋本の担当内容は〝国際政策学部で何を学ぶか〞です。本論に入る前に、2点、前置きがあります。1点目は簡単です。スマホやタブレットの人は、画面を横にしてください。このファイルをプリントアウトできる人はしてください。以上。
 2点目が重要です。この授業の進め方についてです。この授業と言っても、橋本が担当する部分のみです。安藤勝洋先生と箕浦一哉先生はまた別の方法で授業されます。橋本担当分は、この文章ーーテクストと呼びますーーを20分程度で読んでもらうことにします(そのくらいで十分に読める長さです)。その理由は、受講生のみなさんがどのような環境で遠隔授業を受けることになったとしても、できるだけ問題なく受講できるようにしたいからです。スマホのほかにパソコンはあるか、タブレットはどうか、ギガは十分か、音声は発せられるのか、といったことを想像したとき、テクストの提供と読解という方法がもっとも問題を少なくできるのではないかと考えました。
 読むだけというのは退屈に感じられるかもしれません。ですが、〝読む〞と〝書く〞は大学での学びにとって非常に重要です。本や論文は読むものです。そして、読めないと書けません。逆に、読めれば書けるようになっていきます。この授業を、卒業論文を書くための、少し早い、ひとつの訓練だと捉えてください。また、読むことは受動的な営みではありません。能動的な行為です。読もうとしないと読めません。ぜひ線を引きながら、矢印を書き入れながら、自分の考えを書き加えながら、読んでください。
 テクストがあれば、あとで読み返すこともできます。私たちが2,000年前のギリシャで書かれたものを読むことができるのは、それがテクストになっているからです。読んだうえで、それでもさらに尋ねてみたいことがあれば、メールで問い合わせてください。アドレスは公開しています。

 さて、本論に入ります。前述したように、私が話す内容は〝国際政策学部で何を学ぶか〞です。では、なぜ〝国際政策学部で何を学ぶか〞についてわざわざ話すのでしょうかーー必修科目「国際政策入門Ⅰ」の、しかもその初回の最初に。
 答えは、それについて説明したほうが学びやすいはずだからです。当たり前だと思われるかもしれません。しかし、このことを別の角度から言い直すなら、説明しないと学びづらい、ということでもあります。
 さらに問いを重ねましょう。なぜ国際政策学部での学び方について説明しないと学びづらいことになるのでしょうか。それには国際政策学部の特性が関係しています。国際政策学部は、幅広く学ぶことができるところです。国際関係論、経済学、観光論、語学、地域社会論、教育学など、さまざまなことが学べます。これは強みです。
 そして、これらの強みを補強する条件もある程度揃っています。たとえば、少人数制であることです。学生と教職員との距離が近くーーい ま  は  社  会  的  距  離  を  広  げ  な  け  れ  ば  な  り  ま  せ  ん  がーー、質問がしやすく、相談にも乗ってもらいやすい環境にあります。留学や国際交流の制度が整備され、拡充もされています。さらにはフィールドワークも盛んで、地域社会との接面も広く、地域のなかで学びを深めることができます。教職課程や日本語教員、通訳案内士など、免許や資格も取得できます。国際政策学部では、これらの条件に支えられながら、幅広い学びを進めていくことができます。それが強みだと先ほど書きました。
 しかし、往々にして強みは弱みでもあります。幅広く学ぶことができるという国際政策学部の強みは、どのような弱みなのか。それは、学びが中途半端になりかねない、ということです。広く浅く学ぶことができるということは、結局何を専門に学んだのかがわからなくなるおそれがあるということです。国際政策学部の先輩のなかには、卒業するときにこう言った人がいますーー「結局、私は大学で何をしていたのだろう?」と。これは、私にとって衝撃的な告白でした。大学の4年間ーーとは限りませんね。5年でも6年でも7年でもーーの意味が、無までは行かないまでも、著しく減じかねないということです。
 国際政策学部で国際関係論を学んでも、国際関係学部で学んだ人にはおそらく敵わない。国際政策学部で経済学を学んでも、経済学部で学んだ人にはおそらく及ばない。将来は観光の仕事がしたい、語学力を生かしたい、地域で活躍したい、教員になりたいーーしかし、観光学部で学んだ人に、外国語学部で学んだ人に、社会学部で学んだ人に、教育学部で学んだ人に、太刀打ちできるでしょうか。これは国際政策学部の弱みではないでしょうか。
 国際政策学部に入ったばかりのみなさんに、早々に敗北を宣言してほしいのではありません。自信をなくしてほしいのでもありません。逆です。自分がやりたいことをやってほしい、できるようになってほしいと強く願っているのです。そのために、求められるなら手を差し伸べたいと、教職員はみな思っています。待ってもいます。
 
 弱みをどうすればよいでしょうか。少し前に、強みは弱みだと書きました。であるなら、弱みは強みでもあります。そうですよね? 国際政策学部の弱みを強みに変えましょう。着目すべきは、学びが広く浅くなり、中途半端になりかねない、という弱みです。これをどうするか。もう少し具体的に言うなら、狭く深く1つ学ぶのではなく、広く浅く学ぶなかで何か1つを学ぶ意義はあるか、それは何なのか、です。
 何か1つを専門的に学べば、社会や人間のことをすべて理解できるというわけではありません。もちろん、何らかの専門性の見地から社会や人間を理解することは可能だし、極められたほうがよいかもしれない。しかし、それは社会や人間の一部を、ある1点から理解することでしかない。何か1つを学んだからといって、それで社会や人間を理解しきった気になるのは恐いことです。傲慢とさえ言ってもよい。社会や人間は複雑です。複雑さを理解するには、専門性という1つの窓から眺めるだけでなく、窓にはさまざまなかたちがあることや、窓のほかにもバルコニーや屋上やヘリコプターや地面や宇宙からも社会や人間を眺められることを知ることが必要です。
 専門性は不要だと言いたいわけではまったくありません。むしろ身に付けてほしい。1つの窓から社会や人間をしっかり見られるようになってほしい。でも、それだけでは足りないのではないか、ということです。
 みなさんには、国際関係論、経済学、観光論、語学、地域社会論、教育学など、自分が学びたいことの基軸、すなわち身に付けたい専門性を鋭く意識しつつ、さまざまなことを総合的に学ぶことで、物事を複眼的にーーつまり、さまざまな窓から、場所からーー思考できるようになってほしいのです。物事を捉えるための〝眼〞を複数、もっと言えばたくさん獲得してほしい。自分の学びの基軸とその〝眼〞のあいだを何度も行き来することで、みなさんの思考は鍛えられ、物事の本質を掴まえる眼も鍛えられていくはずです。
 そのために、みなさんにはたくさんのことを、他大学他学部の人よりも多くのことを勉強してほしい。国際関係学部や経済学部や観光学部や外国語学部や社会学部や教育学部といった専門学部で学びはじめた同世代以上に、彼/彼女らが専門的に学ぶ以上に、多くのことを勉強してほしい。そして、その広く深い学びによって専門性と総合性を身に付け、自分をつねに更新し、変身し、自らが望むところへと飛び出していってほしい。

 できれば夜を待たずにいま、思い起こしてほしいのは、あるいは考えてみてほしいのは、

 〝自分はなぜ国際政策学部を選んだのか〞

ということであり、

 〝自分は何を学ぶために、何をするために国際政策学部を選んだのか〞

ということです。これらの問いには、みなさんの専門性の根っこになるはずのもの、総合性の結び目になるもの、つまり〝問題意識〞を再確認する意味があります。問題意識は、学びの基軸に大いに関わっています。

 問題意識を自覚するための方法について、最後に少しだけ説明します。思考法と呼ばれるもののなかには、バックキャスティング(backcasting)と、フォアキャスティング(forecasting)があります。一方のバックキャスティングは、目標から逆算していまどうすべきかを思考する方法で、他方のフォアキャスティングは、現在から積算して目標を構築していく方法です。すでに目標が明確な人はバックキャスティングによって、その目標達成のためにいま何をすべきかを考え、実践していきましょう。まだ目標がはっきりしないという人も、焦る必要はありません。自分の問題意識に基づいて授業を受けたり本を読んだりすることで、少しずつ目指すべきところが見えてくるはずです。目標設定型の勉強を心がけましょう。

 改めて、直前に掲げた2つの問いを受け止めてください。そして、ひとまずでよいので、答えを出してみてください。それを実際に書き出してみてください。いまの答えと、8月の答えが変わっても構いません。3月にまた変わってもよいです。問題意識を研ぎ澄ましていくということは、何かにしがみつき続けるということではありません。変わらないということでもありません。この前・後期「国際政策入門Ⅰ・Ⅱ」は、さまざまな角度からみなさんにボールを投げていく授業です。すべてのボールをとりあえず捕らえて、そのボールがみなさんの内面に潜む問題意識とどのように反応するかを毎回確認してください。その反応は、いまいち関心が持てなかったということでも、よくわからなかったけれども何か引っかかるということでもよいのです。さまざまなボールがぶつかって、みなさんの内側にあるはずの問題意識という氷塊が少しずつ削れ、剥がれ、溶け、最後に何か残るものがあるかもしれません。〝なぜ自分はここで学ぶのか〞、答えを出せるのはあなた以外にいません。〝これだ〞というものを見つけてください。自分の納得を求めていってください。
                        2020年5月7日
                          橋本 憲幸

 ご参考までに、橋本憲幸先生の著書をご紹介します。関心のある方はぜひ読んでみてください。

『教育と他者ー非対称性の倫理に向けて』
2018年,春風社.
日本比較教育学会平塚賞(特別賞) 受賞
国際開発学会学会賞(奨励賞) 受賞


これからもよろしくお願いします。
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山梨県立大学の公式noteです。学生と教職員の「人が見える、声が聞こえる」noteを目指します。よろしくお願いいたします。

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